海外と働く · モジュール 4 / 7

意思決定はどう進むか

日本の会議は、決まったことを確認する完成式です。相手の会議は工事現場で、決定はその部屋の中で組み上がります。両方の仕組みを言葉にして、どちらの場でも自分の案を通せるようにします。

地上には一本の木が立ち、土の下には手入れの行き届いた広大な根のネットワークが金色に淡く光っている。
根回しは、根の周りを回る作業です。相手の組織には、この地面の下の工程がありません。

このモジュールを終えると

読了 約10分

できるようになること

  • いま止まっている案件をひとつ選び、5段階のライフサイクルに置いて、どの段階で止まっているかを言葉にする。
  • 相手の会議で、自分の反対意見を4つの動きから組み替えて、その場で1回言う。
  • 会議の前に一対一の会話を1回行い、これは決定の依頼ではなく相談だと最初に伝える。

始める前に

前回の内容を思い出す

モジュール3:場を読み解くについての3問です。読み返すよりも、記憶から引き出すほうが定着します。回答は保存も採点もされません。

1. 会議で案を出したところ、相手のチームから、いいと思う、よさそうだ、という反応が返ってきました。合意はできましたか。
2. 会議で同僚が、あなたの案を真正面から否定しました。言葉もはっきりしています。どう読みますか。
3. 相手のチームの会議で、あなたの案に対して誰からも意見が出ませんでした。これは何を意味しますか。

根回しとは、会議で議題になる前に、関係者と一人ずつ個別に話をして合意を作っていく実務です。提案が会議室に届くころには、関係する全員がそれを見て、手を入れて、賛成しています。会議は、その会話が作った合意を公式にする場です。

言葉は造園から来ています。根回しは文字通り、木を移すときに根の周りを掘り、時間をかけて準備する作業を指します。根の手当てをせずに木を動かせば枯れます。提案も同じです。

ここまでは、日本で働く人にとって説明のいらない話です。このモジュールの主題はその先にあります。多くの海外の組織では、この順番が丸ごと逆になります。会議が議論と決定の場そのもので、その部屋で出されなかった意見は、なかったものとして扱われます。日本の会議が完成式なら、相手の会議は工事現場です。

意思決定のライフサイクル

日本企業の意思決定は5つの段階を通ります。会議室から見えるのは、そのうち1つだけです。

  1. 01 発案
  2. 02 根回し 一対一の会話の連続
  3. 03 ゆるやかな合意
  4. 04 会議 承認
  5. 05 実行

実際に決定が作られる場所であり、外から来た人には見えない部分

相手のカレンダーに載っている唯一の段階

会議はテープカットです。工事はその前に終わっています。
  1. 1.

    発案

    誰かが問題か機会に気づき、提案の形を描き始めます。

  2. 2.

    根回し

    影響を受ける人と、影響力の順に一人ずつ話します。話すたびに提案の中身は変わります。

  3. 3.

    ゆるやかな合意

    練り直した提案が回ります。関係者は、他の関係者がどう考えているかを把握しています。

  4. 4.

    会議

    個別の場ですでに合意した内容を、公式の場で確認します。

  5. 5.

    実行

    立ち上がりが速い。誰にとっても、そこで初めて聞く決定ではないからです。

相手の組織では、この5つが90分の会議の中に畳まれます。発案も、意見の収集も、修正も、決定も、同じ部屋で連続して起きます。だから相手にとっては、事前の一対一が5回あったという事実そのものが見えません。見えるのは、こちらが会議で何も言わないことだけです。

事故は両方向で起きます。日本の会議でその場に新しい反論が出ると、式典への割り込みとして受け取られ、同時にプロセスを回した人の落ち度が露出します。相手の会議で反論が出ないと、それは合意として記録されます。同じ沈黙が、片方では配慮で、片方では賛成票です。

この仕組みが残る理由

根回しは、3つの問題を同時に解いているので残っています。ひとつは和の維持で、意見の不一致を、誰の面子も傷つかない個別の場に移します。もうひとつはリスクの分散で、全員が形を作った決定には、失敗したときに責めを負う単独の持ち主がいません。

そして本当の納得を作ります。人は、自分が書き手の一部だった案を確信を持って実行します。承認の日には、その提案には多くの書き手がいます。

2024年の日本企業の意思決定に関するレビューは、まさにこの取引を報告しています。根回しと稟議は包摂性を高めてリスクを分散し、その代わりに個々の意思決定の速度を失い、集団思考のリスクを上げます (Kawaguchi, 2024)。

一件の決定は遅くなり、組織全体としては速く動く。海外の同僚に説明するときは、この一文から始めてください。遅いという評価は、たいていここで止まります。仕組みを守るためではなく、こちらが何を買っていて何を払っているかを、自分の言葉で言えるようにしておくためです。

2つの進み方

直接型の進み方

速く見えて、遅いことが多い

発案
会議と議論
決定
静かな抵抗、手戻り、決め直し

相手の既定値です。決定が早く出るので、カレンダーの上では効率的に見えます。費用は後から、口に出して賛成しなかった人たちを相手に実行する側が払います。

根回し型の進み方

遅く見えて、速いことが多い

発案
個別の会話の連続
承認
実行

数週間、表向きは何も起きません。そのあと会議は20分で終わり、仕事が実際に動き出します。同じ目的地に、合計時間は短く着きます。

経過時間 → 実際に動いている時間 停滞と手戻り 決定
一件の決定では遅く、仕組み全体では速い。

直接型の進み方

速く見えて、遅いことが多い

発案、会議、公開の議論、そして決定。

議論が公開で、決定が速い。そのあと実行が遅くなります。会議室で発言しなかった抵抗が、あとから働き始めるからです。

日本型の進み方

遅く見えて、速いことが多い

発案、個別の会話の連続、修正、そして承認。

合意が個別の場で作られ、会議は短い。実行の立ち上がりが速いのは、全員がすでに賛成していて、計画づくりにも関わっているからです。

どちらの進み方も、どこでも正しいわけではありません。相手が直接型のまま日本の組織に提案を持ち込むと、会議では丁寧にうなずかれ、そのあと3週間何も動きません。逆に、根回し型のまま相手のチームに入ると、会議で黙っている人として記録されます。使い分けの判断は難しくありません。会議が工事現場なら、その場で話す。会議が完成式なら、その前に話す。

フレームワーク

会議前の一対一、4つの動き

1回の会話、4つの動き。相手が直接型の組織にいても、この技術はそのまま効きます。

  1. 1.

    関係から入る

    相手本人、相手の仕事、相手のチームの話から始めます。会話は関係の中で起きているので、まず関係に数分を渡してください。

  2. 2.

    未完成のまま持っていく

    下書きを持っていき、下書きだと言葉にします。まだ形を作っている段階で意見が欲しいと伝えれば、相手に手を入れる余地が生まれます。完成した提案は、相手にイエスかノーしか残しません。

  3. 3.

    守らずに聞く

    ここで出た懸念は、会議で不意打ちにならない懸念です。メモを取り、質問を重ね、その場で論破したくなる気持ちは置いておきます。

  4. 4.

    もう一度持ってくる約束で閉じる

    来週あらためて修正版を持ってきていいか、と尋ねて終わります。相手は次の下書きを待つ側になり、その提案には相手の手あとが残ります。

売り込むのではなく、一緒に形を作る。相手は、会議に出す提案の共同の書き手になります。海外の同僚が相手のときは、最初に目的を一言で置いてください。これは決定の依頼ではなく相談だと言われないかぎり、ローコンテクストの相手は持ってきた案を完成品として読み、事前の接触を裏工作として読みます。

私たちのチャンネルから

1つ目の動きが最初に来るのには理由があります。日本のビジネスでは、信頼が仕事より先に人から築かれます。海外の同僚の多くは、逆の順番で築きます。この2種類の信頼を Jay Vergara が解説します。英語のみです。

その場で反対を言う

工事現場の会議では、反対をその場で出すしかありません。日本語の中で使っている4つの動きは、そのままでは英語の部屋にほとんど届きません。動き自体を捨てる必要はなく、1つずつ組み替えます。

1. 間接的に枠をつける

理解が違っているかもしれない、と前置きすると、日本語の場では全員に逃げ道ができます。英語の部屋では、この一文は前置きとしてしか届きません。置くのはかまいませんが、すぐあとに結論を1文で続けてください。前置きだけで終わると、発言そのものがなかったことになります。

2. 先に文脈を置く

双方が見ているデータを一度なぞってから自分の読み方を出すと、主張ではなく観察として着地します。英語の部屋では、文脈が長いほど本題が薄まって聞こえます。3文以内にまとめるか、結論を先に置いてから文脈を足してください。

3. 質問の形にする

検討する価値はあるか、と尋ねる形は、日本語の場ではこの4つの中で最も仕事をします。目上の人が、その案を自分のものとして拾えるからです。英語では、質問形の反対が反対として数えられないことがあります。相手が拾わなければ、同じ内容を平叙文でもう一度置き直してください。

4. 判断を相手に返す

見解を伺いたい、と結ぶと、言いにくいことは言い終わっていて、決めるのは相手のままです。英語の相手には、丸投げではなく判断の依頼だと分かる形にしてください。何について判断してほしいのかを名指せば、こちらの立場も同時に残ります。

この4つを英語の部屋で数回使うと、率直さを求められるようになります。言いにくいことを言える人だと分かるからです。日本の会議では、同じ4つがそのまま効きます。捨てるのではなく、部屋に合わせて組み替えるのが技術です。

発言に関する研究も、この設計を支持しています。2023年のレビューは、問題を指摘することはアイデアを出すことより一貫して難しく、話しても安全だと感じられる場の条件が、個々の言い回しより効くと報告しています (Morrison, 2023)。この4つは、その安全を文そのものに組み込みます。

飛び越えない

日本の組織には、仕組み全体の上にルールがひとつあります。直属の上司に一報を入れずに、その上へ提案を持っていかない。

私たちが研修で担当した、海外から着任したエンジニアリングリードは、これを高い授業料で学びました。本当に良いアイデアを2階層上に直接送り、上司は人づてにそれを知り、その上司は自分の上長の前で面子を失いました。アイデアは採用され、関係の修復には半年かかりました。本人に悪意はなく、積極性のつもりでした。

逆向きの事故もあります。相手の組織では、階層を飛ばした相談が普通の動きとして扱われることがあり、そこで日本のルールを持ち込むと、必要な人に情報が届かないまま時間だけが過ぎます。どちらのルールが効いている部屋なのかを、着任した週に一度聞いてください。ここでは上に上げる前にまず直属の上司に一報を入れるのか、それとも直接でいいのか。聞くこと自体が失礼になる組織は、ほとんどありません。

今週試すこと

その場で1回、言い切る

今週の会議で、持ち帰ろうとした意見を1つ選び、その場で口に出してください。組み替えは4つの動きから作ります。短い前置き、3文以内の文脈、結論の1文、そして相手に何を判断してほしいかの名指し。

あわせて、次の提案の前に15分の一対一を1本入れてください。相手が海外の同僚なら、始める前に、今日は決めてもらう場ではなく案に手を入れてもらう場だと伝えます。個別の場で聞いた反論は、公開の場であなたの提案を潰さない反論です。

印刷用ツール

The Decision Phrase Bank

5つのカテゴリー、25のフレーズ。ためらいを表に出し、決定をはっきりさせ、沈黙に意味を語らせるための英語の言い回し集です。このモジュールのすべての会話に対応する、印刷して使える一枚です。

フレーズ集を開く →

最後に

よくある質問

相手の会議で黙っていると、どう記録されますか?

賛成として記録されます。率直に話す組織では、会議はその場で議論して決める場なので、出されなかった意見は存在しなかったものとして扱われます。あとから届いた反対は、決まったことの蒸し返しとして読まれ、内容が正しくても信用を減らします。持ち帰って考えたい場合は、それ自体をその場で言ってください。いつまでに返すかを添えれば、保留は正式な選択肢になります。

「根回し」を海外の同僚にどう説明すればいいですか?

機能から説明するのが最も速く伝わります。会議で議題になる前に、関係者一人ひとりと個別に話をして合意を作っていく実務です。そのうえで語源を添えてください。根回しはもともと造園の言葉で、木を移すときに根の周りを掘り、時間をかけて準備する作業を指します。根の手当てをせずに木を動かせば枯れます。提案も同じだ、という順で話すと理解が早まります。

会議の前に個別に話すことは、裏工作だと思われませんか?

目的を言葉にしないと、そう読まれることがあります。違いは目的と透明性にあります。プロセスが動いていること自体を全員が知っていて、話を聞くたびに提案そのものが実際に変わり、目的は優位に立つことではなく納得を作ることです。だから最初に、これは決定の依頼ではなく相談だと一言置いてください。事前の一対一そのものは、率直に話す組織でも広く使われている準備の技術です。

根回しは意思決定を遅くしませんか?

一件の決定で見れば遅くなります。組織全体で見ると、多くの場合そうはなりません。実行が、隠れた抵抗とぶつかるところからではなく、全員が揃ったところから始まるからです。日本企業の意思決定を扱った研究も同じ取引を報告しています。包摂性とリスクの分散が得られ、その代わりに一件ごとの速度を支払います。海外の同僚に説明するときは、この一文から始めてください。

このモジュールについて

Peak Potential Consultingが制作した無料の資料です。印刷してもチームに共有しても構いません。その際は出典表示を残してください。引用や改変をされる場合は、出典としてPeak Potential Consultingの名前を挙げ、元のページにリンクしてください。有料の研修プログラム内でご利用になる場合は、事前にご相談ください

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